サンクスブログ

〈広告好きの「偏向的」本棚 vol.3〉 園芸家12カ月(原題:Zahradnikuv rok)/カレル・チャペック著


〈広告好きの「偏向的」本棚 vol.3〉


園芸家12カ月(原題:Zahradnikuv rok)/カレル・チャペック著 翻訳;小松太郎


k2005281695

 

実は私、グラフィックも好きですが、
バブル時代に『広告が世界を変えるのだ!』という誇大妄想に
まんまと載せられた一人(笑)ですのでキャッチコピーも大好きです。

この時代に活躍したコピーライターといえば
糸井重里さん〈「不思議、大好き。」「おいしい生活」(西武百貨店)〉
仲畑貴志さん〈「おしりだって、洗ってほしい。」(TOTO)・「目のつけどころが、シャープでしょ。」(シャープ)〉
が2大巨頭でありましてこの時代の若者はとてもアコガレたものでした。(遠い目)

その仲畑貴志さんがコピーライターの新人教育で使ったのが今回ご紹介する本、「園芸家12カ月」です。
この本はカレル・チャペックというSF作家(ロボットとい言葉を最初に作った方らしいです)が
自分の趣味である園芸についてあーでもないこーでもないとユーモアたっぷりにまた時には
辛辣に書いてあるのですが、もう流れるような文章が素敵です。
例えば…


『神様─どうぞ毎日、真夜中から3時まで、土の中によく染み込むようにゆっくり、暖かい雨を降らせて下さい。
(乾燥を好む植物には雨を降らせないでください。)一日中陽があたりますように。しかし、どこもかしこも同じ
ように日を当てないでください。日陰を好む植物もあります。─なお、日差しはきつすぎると困ります。
それから、うんとたくさん霞をください。風は少なく、ミミズはたっぷり。アブラムシとカタツムリと
ウドンコ病はお与えくださいませんよう。週に一回、薄い液肥とお降らしください。アーメン』


 

実に流れるような文体ですよね。ハッキリ言って私は園芸にはほとんど興味はないのですが、
文体を感じるだけで楽しいです。
この文章を踏まえて仲畑貴志さんの名コピーを少し長いですがご紹介。

 


そのH2Oが問題なのです。井戸水に限るというものがいると思えば、いや井戸水はいけないという者がいる。そこへ、ミネラルウォーターが良いと口をはさむものがいて、水道で充分という者がおり、それならば断じて浄水器を使用すべしと忠告するものがいる。また、山水こそ至上と力説する自称水割り党総裁が出現し、清澄なる湖水に勝るものなしとの異論が生じ、花崗岩層を通った涌き水にとどめをさすと叫ぶものあり。果ては、アラスカの氷(南極の氷ではいけないという)を丁寧に削り取り、メキシコの銀器に収め、赤道直下の陽光で溶かし、さらにカスピ海の…と茫洋壮大なる無限軌道をさまよう者もある。と思えば、そっとあたりを伺い、声をひそめ、ただひと言、秋の雨です、と耳うちするものがいたりする。我が開高健先生によれば「よろし、よろし、なんでもよろし、飲めればよろし、うまければよろし」ということになる。さて、あなたは?今夜あの方と水入らずで。「角」。


 

これはサントリーのウイスキー「角」のCMコピーなのですが仲畑貴志さんが
どれほどカレル・チャペック氏の文体に心酔しているかわかるというものです。
そして彼は会社の新人教育でこの『園芸家12ヶ月』を丸写しするように命じたそうです(!)

なぜそこまでこの文体に惹かれるのか?それはいろいろな視点からもの事を見ていて気付かされたり、
共感を呼ぶ事柄を多角的に取り込みながら軽妙洒脱な表現をしているからと思います。
広告デザインは様々な要素の兼ね合いで、入れたいものを「削る」ことが多いのですが
これだけのこだわりを嫌味なく詰め込めるのは文章ならでは。ある意味「広告の理想」なわけです。

実際のデザインは新聞広告でモノクロ。商品のイラストを真ん中にして上記のコピーが左から縦書で流れている
シンプルなものですが、今でも魅力的なデザインです。

こういうエピソードを踏まえて、グラフィックとコピーの駆け引きを
もっと楽しめるデザイナーになりたい!そんな気分にさせる一冊でした。

 

・〈広告好きの「偏向的」本棚 vol.1〉 みんなに好かれようとしてみんなに嫌われる(勝つ広告のぜんぶ)/ 仲畑貴志著
・〈広告好きの「偏向的」本棚 vol.2〉 写真の本質(原題:The Nature of Photographs)/スティーブン・ショア著

 


 

 

【デザイナーブログ】は普段、折り込みチラシやパンフレット・DMなどの広告を実際にデザイン制作しているサンクスのデザイナーブログです。毎回筆者が交代しますので様々な内容でお楽しみいただけます。

 


 

この記事へのコメント数: 0 コメント

コメントする